082:チェック(柳原恵津子)

ネクタイを買うことのなくユニクロのチェックのXLとしたしむ

081:網(柳原恵津子)

しかし証であるからちゃんといただいて大切にしまう連絡網を

080:議(柳原恵津子)

引きつぎをひとつ終えたり八月と十月の議事録なくしたまま

079:絶対(柳原恵津子)

絶対という語の好きなおさなごが絶対と言うときのニヤニヤ

078:棚(柳原恵津子)

地球儀を寄せてタオルで棚を拭く今年もおひなさまを出そうよ

077:聡(柳原恵津子)

聡明というわけじゃなく優しいとも違ってですがわたしの姉だ

076:ほのか(柳原恵津子)

ぞんざいに子のいれてくれし珈琲のなみなみとほのかに温かし

075:盆(柳原恵津子)

簡潔に言う男らしい藤原道長のおおき盂蘭盆の文字

074:焼(柳原恵津子)

外泊をはじめてしたるおさなごの焼きマシュマロの話など聞く

073:谷(柳原恵津子)

この冬のこどもたちとの約束は谷中銀座の飴屋の飴、ほか

072:銘(柳原恵津子)

叱責のメールを打ってその足で鉄剣銘を板書しており

071:側(柳原恵津子)

われの右側のあなたの右側の甘夏のワゴン販売の声

070:しっとり(柳原恵津子)

午後の雨の多き霜月前髪をしっとり濡らし子は帰り来ぬ

069:排(柳原恵津子)

電話はいや。新聞やさんにもでない。排水管清掃からも逃げる。

068:沼(柳原恵津子)

ずっと沼を歩きつづけたその先の発光をはじめそうな匂い、を

067:手帳(柳原恵津子)

書いて書いて手帳を埋める己が身を愛するためのメソッドとして

066:浸(柳原恵津子)

まきびしが転がる日々のつかの間をうさぎリンゴのための塩水

065:砲(柳原恵津子)

もう君は大きいのだからそんな走って来たら大砲の弾みたいだ

064:妖(柳原恵津子)

ほどほどに付き合うことを子も知りて妖怪体操第一ができる

063:院(柳原恵津子)

下町の産院の医師なりし祖父のわたしは生まれ変わりだという

062:ショー(柳原恵津子)

仄暗き水槽に子は見入りたりショーを終えし白イルカ二頭の

061:倉(柳原恵津子)

新生児用体重計にモンチッチを乗せおり倉庫に身をかくす日は

060:懲(柳原恵津子)

懲役と死刑を秤にかけた上での7人の殺害だという

059:畑(柳原恵津子)

雨上がりのお芋畑のお土産は大きな芋と泥んこズボン

058:惨(柳原恵津子)

徒競走は嫌、でも五年目になれば惨敗ののちの顔も晴れやか

057:県(柳原恵津子)

お金のないはじまりだったねうえの子は埼玉県西川口生まれ

056:余(柳原恵津子)

またいなくなるから手紙書かなくては余白を近ごろはひからせる

055:芸術(柳原恵津子)

壁中におされた小さな手形では驚かないとても芸術的だね

054:照(柳原恵津子)

照りながら降る雨がみたい光もない水もない温度もない食事

053:藍(柳原恵津子)

うまいよ、と自慢も出るね女の子用ラケットに藍のテープを巻きぬ