2014-11-01から1ヶ月間の記事一覧

042:尊(柳原恵津子)

出来事が文字を蹂躙することのありてたとえば尊の文字など

041:一生(柳原恵津子)

ああ、これは不実、と思う一生という言葉不意に口に出せば

040:跡(柳原恵津子)

はつふゆの遊歩道にはなないろの足跡きみと踏みながらゆく

039:鮭(柳原恵津子)

いつの間にか作らなくなった献立に筑前煮茶碗蒸し鮭チャーハン

038:華(柳原恵津子)

栄達も栄華もからっきし要らぬぜーんぶ投げて君に帰りたし

037:宴(柳原恵津子)

兼業の母の子であれば宴会も飲み会も知りつつ育ちゆく

036:ふわり(柳原恵津子)

スカートをふわり揺らして歩み行く北の魔女の忠実なるしもべ

035:因(柳原恵津子)

何者にもならないといえば原因とずっと同衾ができるのですか

034:由(柳原恵津子)

泣いている理由を問えどおさなごはひたすらに腹を蹴り上げるばかり

033:連絡(柳原恵津子)

風邪をひきし子を休ませるためですら連絡帳を託す人が要る

032:叩(柳原恵津子)

とらえどころなきものの萌芽おさなごが人を叩きたがる冬である

031:栗(柳原恵津子)

給食やおやつの話聴きながら御栗林をあるいてゆきぬ

030:噴(柳原恵津子)

噴煙をあげる山々の映像を眺める他のなき冬である

029:スープ(柳原恵津子)

買うべきか買うべきじゃないか逡巡しオニオンスープを買って帰りぬ

028:塗(柳原恵津子)

実に妙な毎日だった塗り絵などいくらでも買ってやった暮らしは

027:炎(柳原恵津子)

絵が好きなおまえじゃないが炎の絵をおまえが描いたことのないこと

026:応(柳原恵津子)

戦争といえば応仁の乱であるたとえばそういう職掌だった

025:がっかり(柳原恵津子)

がっかりという顔の上手き親友を拾いし日、からの平行世界

024:維(柳原恵津子)

たずねたきたよりたき弱き朝には王維詩集を書架よりえらぶ

023:保(柳原恵津子)

唐突にしあわせは来るポーチへと君の保険証をしまう時などに

022:関東(柳原恵津子)

東京でも日本でもなくこの街を関東と呼ぶときのあかるさ

021:折(柳原恵津子)

沈んでも沈んでも戻らぬ言葉からだを折りたたんで眠りぬ

020:央(柳原恵津子)

草原ではじめた折り句ゆきゆきて香央理さんの央でゆきづまりたり

019:妹(柳原恵津子)

六度目の冬に向き合う妹の水底の貝のようなだんまり

018:援(柳原恵津子)

お姉ちゃんを叱れば反撃があって妹の援護射撃まで来る

017:サービス(柳原恵津子)

覆したきものとしてサービスエース取るものが勝つという勝つの定義

016:捜(柳原恵津子)

満員の快速 不意にひどいひどい家宅捜索されたくもなる

015:艶(柳原恵津子)

躑躅色のくちびるの艶を凝視せり子の胸の膨らみゆく冬に

014:壇(柳原恵津子)

着の身着のままいつものままで会いにゆく檀ふみが好きという母親に

013:実(柳原恵津子)

そういえば君のズボンのポケットからどんぐりの実の出ぬ秋だった